退職時に年次有給休暇を使い切る方法

年次有給休暇、いわゆる有休のことですが、普段どのくらい利用していますでしょうか?

基本的に、付与の日から2年経つと有休は時効で消滅しますが、そんなものだと思っている人も多いでしょう。日頃使わないことを誇っている人もいるかもしれません。ですが、退職する際、使わなかった有休が問題になります。

今回は、有休を使いきって辞める方法について見てみましょう。

【退職間際の有休の特徴】

法律上の観点からいいますと、溜まっている有休は、退職時に使い切ることができます。

《退職間際の有休を使い切れる理由》

特に会社の立場からすると、どうして労働者の福利のための有休が、退職時に使い切れるのか異論もあるでしょう。ですが、年次有給休暇取得の理屈を追求していくと、使い切れるという結論が出てしまうのです。

理由は、次のとおりです。

1)年次有給休暇は基本的に、いつ使っても構わない

2)使用者にも、年次有給休暇の拒否権は基本的にない

3)しかしながら使用者は、業務の正常な運営を妨げる場合に限って、年次有給休暇を別の時季に振り替えさせることができる(年次有給休暇の時季変更権)

4)とはいえ、退職をすでに決めている人について、有休取得時季を別の時季に変更することはできないし、有休行使は業務の妨げともなり得ない

5)よって、1および2の原則に戻る。年次有給休暇を使い切ってから退職するのは労働者の自由である。

ただし、例外があります。

労使協定によって、「年次有給休暇の計画的付与制度」を設けている会社の場合は、退職時に行使すべき有休がそれほど残っていない場合もあります

ただこういった会社にお勤めの場合には、40日も有休が残っていることはないと思われます。

《会社は退職間際に有休を取られたくない》

会社によっては、退職時の有休消化が慣例になっている場合もあるでしょう。その場合は大きな障害はありません。「有休を使い終わったら退職します」と申し出ればいいだけです。しかし、そのような会社ばかりではありません。

多くの会社では、そのようなことを嫌がります。当然と言えば当然で、すでに退職を決め、なんら生産しない人が、給与だけもらっていくのは決して面白いものではありません。

ですが、これについては、会社は日ごろから有休を積極的に取らせるべきだったのだという反論ができるでしょう。会社から、「日頃は有休など取ろうとしなかったくせに」と言われたとしても、「いつ取得するかは労働者の自由」と思っていればいいのです。いちいち反論する必要などありません。

《年次有給休暇全部取得の代償》

権利を行使するのは労働者の自由ですが、次の通り、その代償があるかもしれません。

例えば以下のことが考えられます。

・狭い業界での転職の場合、前の会社と揉めるとマイナス

・退職間際の賞与を減額されるおそれがある

・退職金がある場合、減額され、または支払われないおそれがある

・次の就職が決まっている場合、社会保険の加入期間が被ってしまうことがある

 

有休を使うことはできますが、使うことによって会社と揉めることはあるのです。常に法律が絶対の正義になるわけでないことは、認識しておきましょう。

退職間際の賞与についても、満額をもらいたいのなら、実際に支払われたのちに有休行使に入るほうがいいでしょう

ですがそうしなかった場合において、賞与や退職金等、会社の評価に基づき支払われるものについては、減額されてしまったとしても闘うのは、なかなか難しいでしょう。なぜなら、給取得の報復として、そのような減額をした事実が明白なら別ですが、その因果関係を争うのは難しいからです。

 

最後に、社会保険の加入期間に注意しましょう。

健康保険、厚生年金保険、雇用保険は退職の日まで存続します。その前に次の会社に入社する場合、加入期間が被ってしまいます。雇用保険については重複して加入できませんので、事務処理上エラーが発生し、新しい会社に重複の事実が知られます。そのことが、新たな会社に不審を持たれることもあるかもしれません。

もう出勤することがないのですから形式的に二重就労していても問題ないですが、トラブルを避けるため、新しい会社に、前の会社と期間が重複し社会保険にすぐ入れない旨をきちんと説明し、承諾を得ておきましょう

【年次有給休暇の行使の方法】

さて、実践編です。どのようにすれば有休の全消化ができるでしょうか。

《有休の日数確認》

溜まった年次有給休暇はどのくらいあるでしょうか。わからない場合は人事に問い合わせ、正確な日数を確認しましょう。会社で法律の規定に日数を上乗せしているわけでないのなら、持っている有休は最大で40日となります。これは7年6か月以上在籍している人が、前の年に付与された有休をそっくり使わず残している場合です。

就業規則により、有給休暇の付与時季は会社によって異なりますので、2年の時効により消滅する日も異なります。この点気を付けましょう。さらに気を付けたいのは、有休消化中に、新たな有休が付与される場合があるということです。もちろん新たな有休も使い切れますので、忘れないように計算しましょう。

《有休と就業カレンダー》

就業規則に基づいて、有休の発生時季と消滅時季は、図にしてみましょう。その後、会社の就業カレンダーをチェックします。大事なポイントですが、有休を全部使うといっても、就業義務のない日には使えません。

現実的に週に6日必ず出勤していたような人でも、6日間すべてに有休を充当したりはしません。あくまでも、本来の就業日のみに有休を当てはめていきます。就業予定のカレンダーに、1日ずつ有休を充当していきましょう。

出勤日が不明確な人であっても、月のカレンダーはあるはずなので、有休を当てはめることは可能です。その結果、有休を使い終わった日が退職日となります。退職日を先に決めている場合は、カレンダーを逆算して有休を埋め、最終出勤日を決めましょう。これで準備はひとまず完了です。

《退職と有休の意思表示》

この先ですが、退職願と、年次有給休暇の取得願を同時に提出します。退職願がないと、ただの有休大量消化であり、有休時季変更権を行使される可能性があります。揉めることがあらかじめ予期できる場合もあるでしょう。退職願だけでなく、有給取得を拒否されてしまい、受領されないということもあるかもしれません。

その場合は、社内の書式とは別に、法律上の手段で書類を会社に提出しましょう。集配を扱っている大きな郵便局から、内容証明郵便を出しておきますその際「配達証明」も付けることを忘れないようにしましょう

内容証明は、書面の形式が決まっています。手書きでも構いませんので、早めに用意しておきましょう。

書面の内容としては、次を記載します。

・退職日

・退職事由(一身上の都合でよし)

・年次有給休暇行使の日程

裁判になったときには、いつ誰に、どのような法律上の請求をしたのかが非常に重要になりますが、内容証明郵便を出しておけば証明できます。裁判ではなく、労働基準監督署に動いてもらう場合も、証拠は役立ちます。内容証明郵便を出せば、郵便局と手元にちゃんと控えが残りますので安心です。

→内容証明-日本郵便のページはこちら

《意思表示の後》

意思表示後は、決めた予定を極力守りましょう。会社の要請に応じて、有休消化の一部を断念する場合、あるいは日付をずらす場合などは、必ず書面の提出をすべてやり直しましょう。

【会社側の有給休暇取得の阻止手段】

有休取得の方法をご説明しました。ですが、期待通りに済むことは決して多くないかも知れません。やはり嫌がりますからね。ですので、会社側の出方も研究しておきましょう。

そもそも「有休を使い切ってから退職する」という労働者の意思表示について、使用者側には法的な対抗手段はあまりありません。ですが、それでもいろいろな方法を繰り出してくるものです。特にブラック企業は。

《解雇》

会社側の有休消化阻止の手段として、解雇する方法が一応あります。解雇しますと、その理由を問わず有休は消滅します。ですが、日本の法制度においては、自由に解雇することはできず、正当な理由が必要になります

有休行使を阻止するための解雇であれば、争いになったとき、解雇が認められる可能性は極めて小さいでしょう。そもそも、解雇に正当な理由があるかないかの前に、解雇が形式的に有効かどうかの問題があります。

形式的に有効な解雇をするためには、解雇予告手当として、平均賃金の30日分の解雇予告手当が必要です。30日前に予告して、解雇予告手当を支払わず解雇という方法もありますが、この場合でも、20日から22日程度(ひと月の就労日数)分の有休は消化できますので、会社として解雇は決して賢い方法とはいえません。

《損害賠償請求》

居丈高な会社ですと、有休消化により会社が損害を受けたと、損害賠償請求を匂わせてくることがあります。労働法規上、「損害賠償の予定」は禁じられていますが、現実に発生した損害について損害賠償請求することは合法的にできます。

ですが、ここでひるまないようにしましょう。有休を消化したことに基づき発生する会社の損害はありません。有休が労働者の権利である以上、当然です。

損害賠償をするとすれば、次のような理由付けをせざるを得ません。

・引継ぎをきちんとしなかった

・社外と通じて社内の情報を漏洩した

しかし、どちらも損害賠償に持っていくには相当厳しいです。後者はただの因縁です。そもそも損害については、会社が具体的にその額を立証しなければならず、漠然と困ったという程度では損害になりません。

引継ぎは確かに、有休消化の届出を出してすぐに有休消化に入る場合なら、不完全に終わるかもしれません。ですが、会社が引継ぎを求めた際、それに応じて退職日をずらせば済みます。いずれにしても、求められているかどうかを問わず、引き継ぎ書面はきちんと作りましょう。

また、会社が「次の従業員が採用できて、それに引継ぎができない限り退職は認めない」などと言ってくる場合もあります。ですが、これが命令であれ要望であれ、応じる義務などありません

引継ぎ相手がいなければ、引継ぎしようにもできないのですから、その場合は書面をきちんと作って出す以外に、そもそも引継ぎの方法がありません。替わって仕事をする職員がおらず、それによって現実に会社に損害が発生したとしても、それは辞める人の責任ではありません。

《会社の講じるその他の方法》

それ以外の会社の対抗手段を見てみましょう

・恫喝

・要請

・泣き落とし

・交渉

恫喝は脅迫ですから到底許されるものではありません。スマートフォンアプリで録音しておきましょう。刑事事件の証拠になるかもしれません。

一方、平穏な要請は、まったく会社の自由です。法律を勉強しておいて、これで有休が取れるはずだと思っていると、「少しは有休を取っていいが全部は取らないで欲しい」という要請を受けて戸惑うこともあるでしょう。平穏な要請は、それに対して労働者が自由な意思で応じたのであれば、何の問題もありません。自分の権利はすでに確定していると思い、会社が要請をしてくること自体が不当だと勘違いしますと、トラブルの元です。とはいえ、会社の要請に、労働者が応じないのも自由です。どこまで応じるのか、あらかじめ腹をくくっておきましょう。

泣き落としを受け、頭を下げられたことで満足して、要求の全部または一部を取り下げるのもまた、労働者の自由です。

交渉についてもまったく自由で、これは労働関係法規に抵触しなければ問題はありません。有休の買取などが該当します。

【有休の買取について】

会社と交渉するのは自由だと書きました。ですので、会社の対応に応じ、有休消化を交渉材料に使うこともまた自由です。実際、40日分の有休で、2か月程度在籍を先延ばししても、労働者側も困ることがあるでしょう。

その場合会社に有休を買い取ってもらうことはできないのでしょうか?

これについては、自由な交渉の結果であれば許されています。交渉の結果、たとえば有休を6割で会社が買い上げて、お金を支払うというような交渉ごともいいわけです。会社は支払う賃金を減縮でき、辞めるほうは早く自由の身になれます。もちろん、交渉の結果、8割でも4割でも構いません。

法律上問題になるのは、会社が有休買取を強く希望し、それに応じて、自由な意思によらずに退職を繰り上げざるを得ない背景があるようなケースです。

【まとめ】

退職時の有休使い切りの方法について見てきました。会社と闘う覚悟があるなら、法律上認められた権利ですので全て消化できます。妥協も場合によっては必要ですが、会社とは着地点が最初から違います。

安易な妥協をしますと、丸め込まれることもあるのでそうならないようにハッキリと自分の意思を伝えましょう。